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大阪地方裁判所 昭和40年(ワ)1299号 判決

原告 寄田卯之助 外一一二名

被告 泉大津漁業協同組合 外六七名

主文

一 別表(C) 記載の(1) ないし(4) および(6) ないし(9) の各債権は、原告らと被告泉大津漁業協同組合を除く被告らとの共有(準共有)に属することを確認する。

二  別表(C) 記載の(1) ないし(4) および(6) ないし(9) の各債権を、原告らと被告泉大漁津漁業協同組合を除く被告らとの間で、別紙分割基準一覧表(一)、(二)記載の各原、被告のそれぞれの指数(ただし右分割基準一覧表(一)、(二)記載の組合員が死亡した分については、その各指数に相続人である当該原、被告の各相続分を乗じた数値)を総指数合計三一八・四で除した各割合で分割する。

三 被告泉大津漁業協同組合は、別表(C) 記載の(1) ないし(4) および(6) ないし(9) の各債権について、請求、引出、受領その他第一項記載の原、被告らの共有権を侵害する一切の行為をしてはならない。

四  原告らのその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用は二分し、その一を原告らの、その一を被告らの各負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

(一)  別表(C) 記載の各債権は、原告らと被告泉大津漁業協同組合(以下被告組合という)を除く被告ら(以下単に被告らという)との共有(準共有)であることを確認する。

(二)(1)主位的請求

原告らと、被告らとの間で、別表(C) 記載の(1) ないし(3) 、(5) の債権の全部、及び同表記載の(4) の債権のうち金一、二六八万四、六五二円(昭和三九年八月一三日から金一〇〇円について日歩金一銭六厘四毛四糸の割合による利息金を含む)を、別表(D) の「一人当百分比」欄記載の割合で分割し、同表記載の債権のうち、右分割にかゝる以外の債権を、均等に、(別表(A) 記載各原、被告らについては、被相続人ごとに一人として計算し、その金額を、同表の法定相続分欄記載の割合に分割した割合とする)分割する。

(2)予備的請求

原告らと被告らとの間で、別表(C) 記載の(1) ないし(3) 、(5) の債権を、別表(D) の「一人当百分比」欄記載の割合で分割し、同表記載債権のうち右分割にかゝかる以外の債権を、均等に、(別表(A) 記載の各原、被告らについては、被相続人ごとに一人として計算し、その金額を同表の法定相続分欄記載の割合に分割した割合とする)分割する。

(三) 被告組合は、別表(C) 記載の債権について、請求、引出、受領のほか、他の用途に供するなど原、被告らの別表(C) 記載の債権に対する共有(準共有)権を侵害する一切の行為をしてはならない。

(四)  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決。

二  被告組合および被告ら

(一)  本案前の主張

(1)  原告田中信一、同吉野孝一の各訴を却下する。

(2)  原告らの本件訴中別表(C) 記載の債権の分割を求める部分を却下する。

(二)  本案の答弁(請求の趣旨(一)、(三)について)

原告らの請求を棄却する。

(三)  訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決。

第二当事者の事実上および法律上の主張

一  被告組合および被告らの本案前の主張

(一)  原告田中信一、同吉野孝一の各訴について

本件訴は、同原告らを原告と表示して提起されているが、同原告らは、本件訴提起当時すでに死亡していて実在せず、その後同原告らの相続人らの追加提訴もない。従つて、同原告らの各訴は、死者によつて提起された不適法な訴として却下されるべきである。

(二)  共有物分割の訴について

原告らは、共有物分割の訴として、別表(C) 記載の債権の分割を求めている。しかし、後述するとおり、右債権を共有物分割の訴によつて分割することは許されないし、かりにそれが許されるとしても、共有物分割の訴は、固有必要的共同訴訟であつて共有者全員が訴訟当事者とならなければならないのに、本件では、前述したとおり、共有者中原告田中信一、同吉野孝一の相続人らが訴訟当事者となつていない。従つて、原告らの本件訴中前記債権の分割を求める部分は、不適法な訴として却下されるべきである。

二  被告組合および被告らの本案前の主張に対する原告らの反論

本件訴状で「原告田中信一」、「原告吉野孝一」と表示されている各訴の真実の原告は、それぞれの相続人である田中国夫と吉野孝喜代である。また、別表(C) 記載の各債権は、共有物分割の訴によつて分割されるべきである(本件請求の原因事実(四)、(五)参照)。

三  本件請求の原因事実

(一)  当事者

被告組合は、昭和二四年一〇月三日、水産業協同組合法に基づき設立された漁業協同組合であり、泉北地区地先で共第一四ないし第一七号の共同漁業権(漁業法六条五項三号の第三種共同漁業を内容とする共同漁業権、以下本件共同漁業権という)を有していた。

原、被告らは、被告組合の組合員である(ただし、別表(A) 記載の各原、被告については、同表の各被相続人欄記載の者が組合員であつたが、同人らの死亡にともない、同各原、被告が相続によりその地位を承継した。以下これらの者を含めて原、被告らという、後記(六)、(七)参照)。

(二)  補償金などの支払いおよびその保管状況

(1)  補償金 金八、二〇六万八、四八〇円

訴外大阪府は、昭和三五年ころ、本件共同漁業権の対象区域を含む泉北地区地先で臨海工業用地の造成事業を計画した。そこで、被告組合は、同年ころから、訴外忠岡漁業共同組合と共同して漁業補償などについて交渉を続け、両組合は、昭和三七年四月二八日、大阪府と、「大阪府は、造成事業に伴う一切の漁業の損失および造成地の利用に伴う一定区域内の一切の漁業の損失に対する補償金(見舞金も含む)として、金一億四、二四八万円を両組合に対して一括して支払い、両組合は、同日本件共同漁業権などを放棄する。」旨の協定を締結し、右補償金の支払いを受けた。両組合は、昭和三八年三月一五日、右補償金の分配について協定を締結し、被告組合は、金八、二〇六万八、四八〇円(以下本件補償金という)の分配を受けた。

本件補償金は、同日から銀行の定期預金として保管され、発生した利息金七五九万九、八五五円と合わせて、現在は別表(C) 記載の(1) ないし(3) の預金債権になつている。    (2)  海水浴場閉鎖見舞金 金一六一万円

被告組合は、同年一二月二五日、大阪府から海水浴場閉鎖見舞金として金一六一万円(以下本件見舞金という)の支払いを受けた。

本件見舞金の一部金六九万一、七四六円は、その後普通預金として保管され、現在は別表(C) 記載の(6) 、(7) の預金債権になつている。従つて、後記の理由により、原、被告らは、被告組合に対し、残部金九一万八、二五四円と、これに対する右見舞金が支払われた日の翌日である同月二六日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の返還請求権を有することになるが、それが同表(C) 記載の(9) の債権である。

(3)  協力金 金一、五〇〇万円

被告組合は、昭和三九年二月一四日、訴外大阪府泉北地区臨海開発組合から本件造成事業に対する協力金として金一、五〇〇万円(以下本件協力金という)の支払いを受けた。

本件協力金は、その後銀行の定期預金として保管され、発生した利息金三八万六、七五〇円と合わせて、現在は別表(C) 記載の(4) の預金債権になつている。

(4)  預託金 金七四万六、〇〇〇円

大阪府は、昭和三九年一月一四日、訴外大阪府漁業協同組合連合会に対し、岸和田木材コンビナート造成に伴う見舞金のうち被告組合として金七四万六、〇〇〇円(以下本件預託金という)を支払つた。同連合会は、同日から、本件預託金を訴外株式会社住友銀行岸和田支店の普通預金口座に預け入れて保管している。従つて、後記の理由により、原、被告らは、同連合会に対しその返還請求権を有するが、それが別表(C) 記載の(8) の債権である。

(三)  組合長の横領

訴外亡浅井芳太郎は、昭和三八年当時被告組合長であつたが、被告組合のため本件補償金に対する昭和三七年四月二八日から昭和三八年三月一五日までの銀行預金利息金八四九万七、六三一円を預り保管中、これをほしいままに費消して横領した。そこで、後記の理由により、原、被告らは、同訴外人に対し同額の損害賠償請求権を有していたところ、同訴外人は、昭和四四年三月九日死亡し、相続により被告浅井清治が二分の一、同松浦稔、同酒井芳秀、同酒井孝司が各六分の一の各割合で、同訴外人の損害賠償債務を承継したが、それが別表(C) 記載の(5) の債権である。

(四)  本件共同漁業権の実体上の帰属関係

本件共同漁業権は、被告組合と、その組合員全員によつて構成される総有者団体とに質的に分有されて、被告組合がその管理権能を、右総有者団体がその収益(つまり漁業を営む)権能をそれぞれ有していたのである。

(五)  本件補償金、見舞金、協力金、預託金(以下本件補償金などという)の実体上の帰属関係

本件共同漁業権のうちその収益権能が原、被告ら組合員によつて構成される総有者団体に帰属していたことは前述したとおりであるから、収益不能(つまり漁業ができなくなること)による原、被告ら漁民の損失に対する補償である本件補償金などもまた、原、被告ら組合員全員に総有的または合有的に帰属する(広義の共有に属する)。従つて、本件補償金などの分配方法は、原、被告ら全員の合意によるか、民法二五八条一項の共有物分割手続によらなければならないが、被告組合および被告らは、本件補償金などが原、被告らの共有に属することを争つている。

(六)  本件訴提起前の組合員の地位の異動(本件の真実の原、被告)

次の(1) の(イ)ないし(ホ)、(2) の(イ)、(ロ)記載の者は、被告組合の組合員であつたが、本件訴提起前に死亡し、その各相続人が被相続人の組合員の地位を承継して本件訴を提起した。従つて、本件では、これらの各相続人が真実の原、被告である。

(1)  原告側当事者

(イ) 田中信一

田中信一は、被告組合員として本件補償金に対する分配請求権を有していたが、昭和三七年一〇月一九日死亡し、その子原告田中国夫(現在は被承継人)は、信一の組合員としての地位を相続により承継し、その後支払われた本件見舞金、協力金についても分配請求権を取得した。

(ロ) 竿下夘三郎

竿下夘三郎は、被告組合の組合員として本件補償金、見舞金に対する分配請求権を有していたが、昭和三九年二月七日死亡し、その子が原告竿下夘三郎の組合員としての地位を相続により承継し、その後支払われた本件協力金についても分配請求権を取得した。

(ハ) 金子市松

金子市松は、被告組合の組合員として本件補償金に対する分配請求権を有していたが、昭和三七年六月二二日死亡し、その妻原告金子ハルエ、長男同金子安昭、長女同武田アサコ、二女同工島一二三、三女同内田弘子、四女同金子正江、二男同金子雄三、五女同桜井加代、六女同山本利子、七女同金子邦子は、市松の組合員としての地位を相統により承継し、その後支払われた本件見舞金、協力金についても分配請求権を取得した。

(ニ) 金子健吉

金子健吉は、被告組合の組合員として本件補償金に対する分配請求権を有していたが、昭和四七年一〇月一五日死亡し、その妻原告金子ハツコ、長男同金子旭、二男同金子正徳、長女同飯島英子、二女同金子光子、三女同金子道代は、健吉の組合員としての地位を相続により承継し、その後支払われた本件見舞金、協力金についても分配請求権を取得した。

(ホ) 吉野孝一

吉野孝一は、被告組合の組合員として被告組合に加入し、本件共同漁業権に基づき、漁業を営む権利(収益権)を有し、現に漁業を営んでいたが、昭和三三年一一月三日死亡し、その子原告(現在は被承継人)吉野孝喜代は、孝一の組合員としての地位を相続により承継し、被告組合に組合員として加入し、本件共同漁業権に基づき、漁業を営む権利を有し、現に漁業を営んでいたのであるから、その後支払われた本件補償金などについて分配請求権を取得した。

(2)  被告側当事者

(イ) 辻野直吉

辻野直吉は、被告組合の組合員として本件補償金に対する分配請求権を有していたが、昭和三七年八月二二日死亡し、その妻被告辻野スミ、三女同辻野朱実、長男同辻野久夫、長女同高松千鶴、次女同八野美鈴は、直吉の組合員としての地位を相続により承継し、その後支払われた本件見舞金、協力金、預託金についても分配請求権を取得した。

(ロ) 藤原喜代松

藤原喜代松は、被告組合の組合員として本件補償金などに対する分配請求権を有していたが、昭和三九年一〇月一五日死亡し、その妻原告藤原ミサエ、長男同藤原喜代一、長女同藤原君子、三男同藤原治、次女同宇野節子、三女同村田芳子、四女同寺本トシ子は、喜代松の組合員としての地位を相続により承継し、本件補償金などに対する分配請求権を取得した。

(七)  本件訴提起後の組合員の地位の異動(訴訟承継)

次の(1) の(イ)ないし(レ)および(2) の(イ)ないし(ト)記載の者は、被告組合の組合員であつたが、本件訴提起後死亡し、その各相続人が本件訴訟を承継した。

(1)  原告側当事者

(イ) 浜口常吉

同人は昭和四九年九月二四日死亡し、同人の実子村田ミツ子、同北野房枝、同浜口勇、同佐藤ツヤ子、同西川ツタ子、同浜口納、同浜口広一の七名が亡浜口常吉の権利義務一切を各七分の一宛相続した。

(ロ) 浜口佐平

同人は昭和四三年一月四日死亡し、同人の妻浜田ふみゑ、同人の実子浜田力、同浜田喜好の三名が亡浜田佐平の権利義務一切を各三分の一宛相続した。

(ハ) 寄田安松

同人は昭和四〇年六月一三日死亡し、同人の妻寄田セイ、同人の実子寄田稔、同我舞フミ子、同寄田清、同札野ミチコ、同寄田耕三、同寄田正夫、同三木賢一、同寄田輝美、同寄田淳一の一〇名が亡寄田安松の権利義務一切を、妻寄田セイにおいて三分の一、その余の九名において各二七分の二宛各相続した。

(ニ) 奥野辰三

同人は昭和四九年八月二二日死亡し、同人の妻奥野キヌエ、同人の実子奥野一男、同林忠夫、同奥野勇、同奥野孝夫の五名が亡奥野辰三の権利義務一切を、妻奥野キヌエにおいて三分の一、その余の四名において各六分の一宛各相続した。

(ホ) 奥野佐太郎

同人は昭和四三年五月一五日死亡し、同人の妻奥野ヤス、同人の実子奥野勇、同奥野弘、同狭間キサエ、同大塚キヨエ、同人の実子亡奥野光雄の実子奥野ひとみ、同奥野孝代の七名が亡奥野佐太郎の権利義務一切を、妻奥野ヤスにおいて三分の一、実子四名において各一五分の二、実子亡奥野光雄の相続人二名において各一五分の一宛各相続した。

(ヘ) 奥野丑松

同人は昭和四六年四月一一日死亡し、同人の妻奥野梅乃、同人の実子奥野ミサ子、同奥野日出子の三名が亡奥野丑松の権利義務一切を各三分の一宛相続した。

(ト) 貫野久吉

同人は昭和四五年七月九日死亡し、同人の養子貫野あやが亡貫野久吉の権利義務一切を相続した。

(チ) 貫野徳次郎

同人は昭和四一年七月一〇日死亡し、同人の実子貫野喜代一、同貫野あや、同森崎きみ子、同貫野芳子、同貫野徳夫の五名が亡貫野徳次郎の権利義務一切を各五分の一宛相続した。

(リ) 釜野一夫

同人は昭和四八年二月二一日死亡し、同人の妻釜野ちか、同人の実子釜野義一、同釜野良雄、同小竹都弥子の四名が亡釜野一夫の権利義務一切を、妻釜野ちかにおいて三分の一、その余の三名において各九分の二宛各相続した。

(ヌ) 黒田喜代松

同人は昭和四九年一月一七日死亡し、同人の妻黒田ひろ、同人の実子黒田常雄、同江戸利雄、同西田孝子の四名が亡黒田喜代松の権利義務一切を、妻黒田ひろにおいて三分の一、その余の三名において各九分の二宛各相続した。

(ル) 滝谷芳一

同人は昭和四一年三月一六日死亡し、同人の妻滝谷鶴子、同人の実子滝谷花子、同滝谷一夫、同滝谷忠夫、同滝谷治、同滝谷シズ子、同滝谷サナエ、同滝谷寿の八名が亡滝谷芳一の権利義務一切を、妻滝谷鶴子において三分の一、その余の七名において各二一分の二宛各相続した。

(ヲ) 永山伊之助

同人は昭和五〇年一月一五日死亡し、同人の妻永山うめ、同人の実子永山よし子、同永山正子の三名が亡永山伊之助の権務義務一切を、各三分の一宛相続した。

(ワ) 上西賢言

同人は昭和四五年四月二七日死亡し、同人の妻上西重子、同人の実子上山純子、同上西烈幸の三名が亡上西賢言の権利義務一切を、各三分の一宛相続した。

(カ) 田中国夫

同人は昭和四二年一二月三〇日死亡し、同人の妻田中シズエ、同人の実子田中義則、同田中美也子、同田中雅仁の四名が亡田中国夫の権利義務一切を、妻田中シズエにおいて三分の一、その余の三名において各九分の二宛相続した。

(ヨ) 池田徳松

同人は昭和四六年八月一三日死亡し、同人の養子辻ハルエ、同池田義三の二名が亡池田徳松の権利義務一切を、各二分の一宛相続した。

(タ) 岩本徳楠

同人は昭和四五年一一月二四日死亡し、同人の養子亡岩本政夫の実子古田治子、同岩本明子、同岩本敏子、同岩本一男、同人の実子岩本徳治、同平野美代子、同向山道子、同岩本常次の八名が亡岩本徳楠の権利義務一切を、同人の養子亡岩本政夫の相続人四名において各二〇分の一、その余の同人の実子四名において各五分の一宛各相続した。

(レ) 大野丁治郎

同人は昭和四一年七月二〇日死亡し、同人の実子大野直吉、同大野富美子、同釜下光永、同亡浜田ていの実子浜田弥、同浜田清弘の五名が亡大野丁治郎の権利義務一切を、実子三名において各四分の一、その余の実子亡浜田ていの相続人二名において各八分の一宛各相続した。

(2)  被告側当事者

(イ) 辻野友吉

同人は昭和五一年九月二一日死亡し、同人の実子辻野富美夫、同灰原ヨシ子、同辻野志津男、同辻野豊光、同辻野一也、同山本加代、同広田洋子の七名が亡辻野友吉の権利義務一切を各七分の一宛相続した。

(ロ) 藤原久吉

同人は昭和四二年七月五日死亡し、同人の子藤原晃が亡藤原久吉の権利義務一切を相続した。

(ハ) 十代市松

同人は昭和四九年七月二三日死亡し、同人の妻十代富士枝、同人の実子井筒恵美子、同十代賢一、同中村小百合、同十代勝彦、同東野一枝、同勝元栄の七名が亡十代市松の権利義務一切を、妻十代富士枝において三分の一、その余の六名において各九分の一宛各相続した。

(ニ) 總谷岩松

同人は昭和四四年一月一日に死亡し、同人の妻總谷ヲイワ、同人の実子總谷久雄、同亡米谷久子の実子米谷よね子、同米谷勉、同米谷田鶴子の五名が亡總谷岩松の権利義務一切を、妻總谷ヲイワ、実子總谷久雄において各三分の一、その余の三名において各九分の一宛各相続した。

(ホ) 岡井伊三郎

同人は昭和四七年七月三〇日死亡し、同人の実子岡井喜代一、同井村喜治、同岡井清子、同岡井秀雄、同岡井政男、同大尾谷福造の六名が各六分の一宛各相続した。

(ヘ) 浅井芳太郎

同人は昭和四四年三月九日死亡し、同人の実子浅井清治、同亡北口ミサ子の実子松浦初子、同酒井孝司の四名が亡浅井芳太郎の権利義務一切を、実子浅井清治において二分の一、その余の三名において各六分の一宛各相続した。

(ト) 浜口富蔵

同人は昭和五一年三月九日死亡し、同人の妻浜口スエ子、同人の実子亡浜口順治の実子浜口久二子、同浜口進の三名が亡浜口富蔵の権利義務一切を、妻浜口スエ子において三分の一、その余の二名において各三分の一宛各相続した。

(八)  分割方法

(1)  損失補償の算定基準

本件補償金などは、本件共同漁業権の収益が不能になつたことにより原、被告らが被る損失に対する補償であるから、先ず原、被告らが被る具体的な損失の補償に充当し、次いで、残余があるときは、権利喪失に伴う抽象的、潜在的な損失の補償に充当すべきである。

そして、具体的な損失の補償の算定基準としては、「電源開発に伴う水没その他による損失補償要綱」二七条、「建設省の直轄の公共事業の施行に伴う損失補償基準」一九条等の規定に従うことが、当事者の意思に合致するから、結局補償額を算定すべき時期より遡及し、各原、被告らが経常的収益をあげていたと評価することが出来る過去五年間の、平年漁業収益額を年八%の利廻りで除して得た額の八〇%とすべきである。

また、抽象的な損失の補償は、各原、被告らが、漁業権喪失に伴い将来に向つて漁業を営むことができる抽象的、潜在的地位及び利益を喪失することに対する補償であるから、結局原、被告ら間で平等に分配すべきである。

(2)  収益割分割比率

以上の基準を本件について適用してみると、先ず、被告組合の組合員である原、被告らが経常収益をあげていたと評価することが出来る昭和三一年から昭和三五年までの五年間における各原、被告らの漁業形態及び漁業実績は別表(B) 記載のとおりである(この実績としては、本件共同漁業権の存する水面と関係のない沖合漁業である巾着漁業については、網元・乗子のいずれをも加えるべきでないことは明白である。)。さらに、この実績を平均した平年漁業実績額は、別表(D) 対応欄記載のとおりであるが、経費として、実績額の一〇%を控除すべきであるから、結局、平年漁業収益額は、同表対応欄記載のとおりとなり、その各々について八%の年利廻りで除した額の八〇%に相当する金額は、同表収益割金額欄記載のとおりとなる。この金額にもとづき組合員一人当りの収益分割比率を算出すると、同表「一人当百分比」欄記載のとおりの割合となる。

(3)  収益割分割比率によつて分割すべき債権

ここで、前記基準は、本件補償金などが支払われた当時に分割を了することを論理的前提としているから、元金の額のみをもつて判定すべきである。そして、本件補償金などの元金額は次のとおりである。

本件補償金 金八、二〇六万八、四八〇円

本件見舞金 金 一六一万〇、〇〇〇円

本件協力金 金一、五〇〇万〇、〇〇〇円

本件預託金 金 七四万六、〇〇〇円

合計金九、九四二万四、四八〇円

この金額が、別表(D) 記載収益割分割金額合計金九、四四三万四、三〇〇円を超えることは計数上明白であるから、結局、右金九、九四二万四、四八〇円の内金九、四四三万四、三〇〇円は、別表(D) 記載収益割分割比率により、原、被告らに分割すべきものである。

そこで、右金九、九四二万四、四八〇円のうちより、金九、四四三万四、三〇〇円に相当するものとして、本件補償金金八、二〇六万八、四八〇円の全額と、本件協力金金一、五〇〇万円の内金金一、二三六万五、八二〇円とを選択して充当する。そして、右金九、九四二万四、四八〇円の元金より発生した利息金は、元金と同一の比率により分割すべきであるが、その金額は、本件補償金金八、二〇六万八、四八〇円より発生した金七五九万九、八五五円と、本件協力金金一、五〇〇万円の内金一、二三六万五、八二〇円より発生した金三一万八、八三二円(金一、五〇〇万円より発生した利息金全額金三八万六、七五〇円を按分割付けた金額)の合計金七九一万八、六八七円である。

すると、収益割分割比率をもつて分割すべき金員は、前記元金と、利息金との合計金一億〇、二三五万二、九八七円となるから、右金員額に相当すべき債権として、別表(C) (1) ないし(3) 記載の定期預金の各全額、及び別表(C) (4) 記載の定期預金の内金一、二六八万四、六五二円(昭和三九年一一月一二日から日歩金一銭四厘の割合による利息金を含む)を引当てれば右各債権は、別表(D) 記載の収益割分割比率で分割すべきものである。なお、別表(C) (5) 記載の損害賠償債権は、本件補償金より発生した利息に関するものであるから、収益割分割比率をもつて分割すべきこととなる。

(4)  均等割によつて分割すべき債権

別表(C) 記載の債権から、右収益割分割比率をもつて分割した残余の債権は、別表(C) (4) の内金二七〇万二、一〇八円の定期預金債権、同表(6) 、(7) 、記載の各普通預金債権、及び同表(8) 、(9) 記載預託金返還債権となるが、これらは組合員である原、被告らに各均等に分割すべきである。

(5)  主位的分割方法

以上の次第で、別表(C) 記載の債権中、(1) ないし(3) 、(4) の内金一、二六八万四、六五二円及び(5) の各債権は、原告らと被告らとの間で、別表(D) 記載の収益割分割比率で分割し、その余の債権は、右当事者間で均等に分割すべきである。又別表(A) 記載の原、被告らは、それぞれ、組合員であつた被相続人らが本件補償金に対する共有持分権を取得した後、その権利を、相続人として、同表記載の続柄にもとづき、同表記載法定割合で相続したものであるから、右各原、被告らに対する収益割分割比率は、別表(D) 対応欄記載のとおりとなり、又均等割は、別表(A) 記載の被相続人ごとに一人として計算し、その金額を同表法定相続分欄記載の割合に分割した割合となる。

(6)  予備的分割方法

なお、仮に、本件補償金などのうち、本件補償金金八、二〇六万八、四八〇円は現実の漁業の実績を基礎として算出された主体的な補償金であり、その他は右のような基礎なく支払われた補償金であつて、前者は前記具体的損失補償に、後者は前記抽象的、潜在的損失補償に、各充当すべきものであるとするならば、別表(C) 記載の債権のうち、(1) ないし(3) 、(5) 記載の債権は、原告らと被告らとの間で、別表(D) 記載の収益割分割比率で分割し、その余の債権は、右当事者間で均等に分割すべきものとなる(別表(A) 記載の相続人については、主位的分割方法と同一の計算方法による。)。

(九)  共有(準共有)権侵害のおそれ

被告組合は、別表(C) 記載の各債権を請求、引出、受領するなどして、原告らの右各債権に対する共有(準共有)権を侵害するおそれがある。

(一〇)  結論

原告らは、被告らに対し、別表(C) 記載の債権が原、被告らの共有(準共有)であることの確認と右債権の分割を求めるとともに、原告らは、被告組合に対し、右債権に対する共有(準共有)権に基づき、その侵害行為の予防を求める。

四  本件請求の原因事実に対する被告組合および被告らの認否

(一)  本件請求の原因事実(一)、(二)の各事実は認める。

(二)  同(三)の事実は否認する。

(三)  同(四)、(五)の各事実は争う。本件共同漁業権は、近代法的な法人である被告組合だけに帰属していたのであつて、被告組合と原、被告ら組合員によつて構成される総有者団体に質的に分有されていたのではない。そして、本件補償金などは、本件共同漁業放棄の対価として、その帰属主体である被告組合に対し支払われ、その組合財産となつたのである。従つて、その処分は、水産業協同組合法四八条一項九号、五〇条四号に基づき、被告組合の総会の決議によるべきであつて、民法二五八条一項の共有物分割手続によるべきではない。また、かりに原告ら主張のとおり本件共同漁業権の収益権能が原、被告ら組合員全員によつて構成される総有者団体に帰属していたとしても、この収益権能が本件補償金などの支払いによつて価値(金銭)に還元された以上、総有関係は消滅した。そして、この場合にも本件補償金などは、被告組合の組合財産となる。かりにそうでないとしても、本件補償金などは、当然に原、被告ら組合員に分割的に帰属し、原、被告らは、被告組合に対し、その分割された金銭債権を有するにすぎず、本件補償金など自体に対しては何ら権利を有しない。

(四)  同(六)、(七)の事実中、相続関係は認める。

(五) 同(八)の事実は争う。かりに、本件補償金などを共有物分割手続によつて分割するとしても、その分割基準としては、(1) 昭和三一年から昭和三五年までの間の漁業実績(水揚実績、別表(E) 記載のとおり」、(2) 保有漁船、漁網、漁具などの規模、数量、稼動状況、(3) 被害率を採用すべきであるし、いわし巾着網業など本件造成事業によつて操業に影響を受ける漁業者である原、被告らに対しても本件補償金などを分割すべきである。

(六)  同(九)の事実は否認する。

第三証拠関係〈省略〉

理由

(本案前の主張についての判断)

第一田中信一、吉野孝一の各訴の適法性について

本件訴状によると、本件訴は、同人らを原告と表示して提起されているが、本件記録中の戸籍簿謄本によると、同人らは、いずれも本件訴提起の日である昭和四〇年三月三〇日(本件訴状の受付印から明らかである)以前にすでに死亡(田中信一は昭和三七年一〇月一九日、吉野孝一は昭和三三年一一月三日)しており、本件訴提起当時実在していなかつたことが認められる。しかし、前掲戸籍簿謄本、本件記録中の原告ら全員の訴訟代理人に対する昭和四〇年三月一九日付、同年六月五日付田中国夫作成名義、同年六月八日付吉野孝喜代作成名義の各訴訟委任状、弁論の全趣旨を総合すると、田中信一の唯一の相続人である田中国夫および同じく吉野孝一の唯一の相続人である吉野孝喜代の両名(以下両名という)は、自分らが被告組合に対し正式な加入手続をせず組合員名簿の書換も受けていなかつたため、本件訴の提起にあたり、自分らを被告組合の組合員であつた両名の被相続人田中信一、吉野孝一と表示して原告ら全員の訴訟代理人に対し訴訟委任状を提出したこと、そこで、本件訴状でも両名は田中信一、吉野孝一と表示されたこと、両名は、本件訴提起後昭和四〇年一〇月八日、当裁判所に対しそれぞれ自分名義の本件訴訟の委任状を追完したこと、以上のことが認められる。そして、これらのことからすると、本件訴状には原告田中信一、同吉野孝一と記載されてはいるが、それらはそれぞれ田中国夫、吉野孝喜代を指称するものとすることができるのである。確かに、本件訴状の当事者の記載だけからすると、このことは困難である。そして「当事者の確定」ができるだけ明確な基準によつてされるのが望ましいことはいうまでもない。とはいつても、この問題については、手続の安定および訴訟経済の要請を無視することができないからすでに進行した手続の遡及的覆滅をなるべく避ける方向で考えねばならないのである。この視点に立つて本件をみると、かりに本件訴状の記載のみに従つて田中信一、吉野孝一を原告とみて、その訴を死者の訴であるから不適法であるとして却下すれば、田中国夫(およびその訴訟承継人)と吉野孝喜代のこれまでの訴訟追行の結果が覆滅されてしまうことになるばかりか原告らの本件訴中、別表(C) 記載の各債権の分割を求める部分は、後述するとおり共有物分割の訴であると解されるところ、共有物分割の訴は共有者全員を訴訟当事者としなければならない(大判明治四一年九月二五日民録一四輯九三一頁参照)から、両名を除外した共有物分割の訴は不適法な訴として却下されることになる。しかし、この結論は、著るしく訴訟経済に反する。また、本件の原告を田中国夫(およびその訴訟承継人)、吉野孝喜代と確定したところで、被告らの利益主張の機会をはく奪される者もない。

本件では、要するに別表(C) 記載の各債権つまり本件補償金などを、原、被告ら個人に配分することについて当事者間に異議がなく、そのための裁判上の和解期日が累ねられたのである。そこで、当裁判所は、この当事者の確定の問題を緩やかに解釈し、窮極の目的である本件補償金などの分割について結論を出すことにしたわけで、このことは、本件補償金などの支払いを受けてすでに一〇年以上を経過しながら、なんらの解決を得ていない原、被告らの利益に合致するとしなければならない。

以上の次第で、本件訴状で「原告田中信一」、「原告吉野孝一」と記載して提起された訴の真実の原告は、田中国夫(現在は被承継人となつている)と吉野孝喜代であるから、これらの者に関する訴は適法であり、右表示の誤りが、昭和四〇年六月一四日付「訴状の補正の申立」と題する書面によつて訂正されたことは本件記録上明らかである。

なお、これと全く同一の理由で、本件訴状で「原告竿下夘三郎」、「原告金子市松」、「原告金子健吉」と記載された各訴の真実の原告は、右三名の各相続人らであり、「被告藤原喜代松」と表示されているのは、その相続人らを指称するわけで、この誤りが、前記書面と昭和四六年二月二四日付「訴状訂正の申立書」によつて訂正されたことは、本件記録上明らかである。

第二共有物分割の訴の適否について

別表(C) 記載の各債権(ただし同表記載の(5) の債権を除く)が共有物分割の訴によつて分割されるべきことは後述するとおりであり、右訴の訴訟当事者に欠ける者がないことは、前述したところから明らかである。従つて、本件共有物分割の訴は適法である。

(本案についての判断)

第一共有(準共有)権確認請求についての判断

一  当事者間に争いがない事実

本件請求の原因事実中(一)、(二)の各事実および同(六)、(七)の各事実中相続関係は当事者間に争いがない。

二  組合長の横領について

原告らは、昭和三八年当時被告組合長であつた訴外亡浅井芳太郎が、本件補償金に対する昭和三七年四月二八日から昭和三八年三月一五日までの銀行預金利息金八四九万七、六三一円を預り保管中、これをほしいままに費消して横領したと主張しているが、成立に争いがない甲第一〇号証(新聞記事)、証人奥野清春の証言(第一回)によつて原本の存在と成立が認められる同第八号証(監査結果報告書)、弁論の全趣旨によつて原本の存在と成立が認められる同第九号証(告発状)によつても、同訴外人の横領の事実についての心証がえられないし、ほかにこの事実が認められる証拠がない。従つて、原告らの共有(準共有)権確認請求中別表(C) 記載の(5) の不法行為にもとづく損害賠償債権について共有(準共有)権確認を求める部分は、その余の点について判断を加えるまでもなく、失当として棄却を免れない。そこで右債権は、後記分割の対象から除外する。

三  本件共同漁業権の実体上の帰属関係について

(一) 前記当事者間に争いがない事実や、成立に争いがない甲第二六号証(我妻栄の鑑定書)、弁論の全趣旨を総合すると、次のことが認められ、この認定に反する証拠はない。

(1)  被告組合は、昭和二四年一〇月、現行漁業法(昭和二四年法律第二六七号)の成立に際し、旧漁業法(明治四三年法律第五八号)上の漁業組合あるいは漁業会を改組して設立された。

(2)  被告組合は、旧漁業法時代泉北地区地先で地先水面専用漁業権を有していたが、右設立時にそれにかえて訴外大阪府知事から本件共同漁業権の免許を受け、昭和三一年、その存続期間の満了とともに引き続き免許を受けた。

(3)  旧漁業法の下での漁業組合の地先水面専用漁業は、一般に慣習的入会漁業の形態をとり、漁業組合が、漁業権を管理(漁業経営一般に必要な施設の設置、各漁民の漁業の監視・調整、第三者との折衝など)し、組合員である個々の漁民が、その総有的収益権に基づいて現実に漁業を営んでいた。

(4)  現行漁業法は、昭和二四年成立し、地先水面専用漁業権を廃して新たに共同漁業権を定め(同法六条)、漁業協同組合又は漁業協同組合連合会にその免許を与えることにした(同法一四条八項)が、共同漁業権となつても、管理と収益の分離という前記権利帰属の本質に変更はなかつた。

(二) 以上認定の事実からすると、本件共同漁業権は、被告組合と、その組合員全員によつて構成される総有者団体とに質的に分有されて、被告組合がその管理権能を、右総有者団体がその収益(つまり漁業を営む)権能をそれぞれ有していたとしなければならない。

(三) 被告組合および被告らは、本件共同漁業権が、近代法的な法人である被告組合だけに帰属していたと主張している。被告組合が近代法的な法人であることはいうまでもないが、この主張は、個々の組合員の収益の法的根拠について説明がつきにくいし、前記認定の現行漁業法の立法経緯にも反するから、採用できない。

四  本件補償金などの実体上の帰属関係について

(一) 成立に争いがない甲第二号証(本件補償金の協定書)、同第三号証(本件協力金の協定書)、同第一六号証(大野宇与茂の別件証人調書)、同第一七号証(粟村甲子の別件証人調書)、同第二一号証(上野顕二の別件証人調書)、同第二二号証(松本辰治の別件証人調書)、証人大野宇与茂、同粟村甲子、同上野顕二、同松本辰治の各証言を総合すると、本件補償金などは、被告組合の組合員である原、被告らが、本件共同漁業権喪失によつて漁獲することができなくなることによつて被る損失を補償する目的で、一括して被告組合に対し支払われたことが認められ、この認定に反する証拠はない。

(二) そうすると、本件共同漁業権の収益権能が被告組合の組合員である原、被告ら全員によつて構成される総有者団体に帰属することは前述したとおりであるから、その収益権能喪失による損失を補償する目的で支払われた本件補償金などが、原、被告ら全員の総有(広義の共有((準共有)))に属することは明らかである。もつとも、本件補償金などは、金銭であるから漁業権と異なり可分であることはいうまでもないが、前記総有者団体の団体的結合性に影響されて、分割されずに単一のまま被告組合の一般財産とならずに原、被告ら全員の共有(準共有)となつたと解するのが相当である。

被告組合および被告らは、以上と異なり、かりに本件共同漁業権の収益権能が原、被告ら組合員全員によつて構成される総有者団体に帰属していたとしても、この収益権能が本件補償金などの支払いによつて価値(金銭)に還元された以上、総有関係は消滅し本件補償金などは、当然に原、被告ら組合員に分割的に帰属し、原、被告らは、被告組合に対し、その分割された金銭債権を有するにすぎず、本件補償金など自体に対しては何ら権利を有しないと主張している。しかし、この主張は、本件共同漁業権の収益権能の総有という権利関係の法的性格(共同漁業権を失なつてもただちに団体が消滅せず、清算の目的の範囲で存続する)にそぐわないから採用しない。

五  結論

以上の次第で、本件補償金などがその同一性を保つて銀行に預け入れられたことなどによつて生じた別表(C) 記載の(1) ないし(4) 、(6) ないし(9) の各債権は、原、被告らの共有(準共有)に属し、原、被告らは、民法二五六条に基づき、その各共有(準共有)持分の分配(分割)請求権を有する。そして、被告らが原告の共有(準共有)権を争う以上、原告らにその確認を求める利益があることはいうまでもない。従つて、原告らの共有(準共有)権確認請求は、被告らに対し前記各債権が、原、被告らの共有(準共有)に属することの確認を求める限度で正当であるから認容し、その余の同表記載の(5) の債権について共有(準共有)権確認を求める部分は、前述したとおり失当であるから棄却する。

第三分割請求についての判断

一  別表(C) 記載の(1) ないし(4) 、(6) ないし(9) の各債権(以下本件各債権ともいう)が、原、被告らの共有(準共有)に属するとともに、原、被告らが、その共有(準共有)持分の分配(分割)請求権を有していることは、前述したとおりである。そして、本件で原、被告ら間に本件各債権の分割の協議が調わないことは、弁論の全趣旨によつて明らかである。従つて、当裁判所は、民法二六四条二五八条一項に基づき、裁判上の共有物分割手続によつて、本件各債権を原、被告ら間で分割することにする。

二  ところで、「漁業補償金は、組合が共同漁業権を放棄したことに対する代償として組合に交付されたものと解されるから、これは組合にとつて一種の清算的剰余金の性質を有するものと解すべきである。従つて、その処分については水産業協同組合法四八条一項七号により総会の決議を経ることを要する。」(富山地高岡支部判昭和四三年五月八日判例時報五五四号六四頁参照)との見解があり、被告組合および被告らもその旨主張している。しかし、本件補償金などは、前記認定のとおり、被告組合の組合員である原、被告らが本件造成事業によつて漁獲ができなくなることによつて被る損失を補償する目的で、一括して被告組合に対し支払われたもので、被告組合が本件共同漁業権を放棄したことに対する代償(対価)ではない。また、前記見解に従つて被告組合が総会を開催して議決を得ようとしても、それが困難であることは、原、被告ら間で本件各債権の分割の協議が調わないことから、優に推認することができる以上、この見解では、本件各債権は分割されないまま放置されることになり、本件紛争の解決にならないことは必定である。そのうえ、総会を開いて多数決によつて本件補償金などを分割した場合、原、被告ら全員の利益を満足させるに足りる衡平妥当な分割ができるかどうか、疑問である。従つて、前記見解は採用できない。

三  そこで、本件各債権の分割の基準について検討すると、当裁判所は、前記本件補償金などの支払われた目的など本件に顕われた諸般の事情を総合考慮し、昭和三一年から昭和三五年までの五年間の各原、被告の漁業実績を基準に分割するのが最も合理的であると判断する。

(一) その具体的方法としては、各原、被告(ただし、本件請求の原因事実(六)の(1) の(イ)ないし(ホ)、(2) の(イ)、(ロ)および同(七)の(1) の(イ)ないし(レ)、(2) の(イ)ないし(ト)記載の者については、被相続人であるそれらの者)が右五年間に従事していた漁業形態を次の七つに分類するとともに、その各漁業形態について次の各指数を割り当て、その指数の総和に対する各原、被告の指数の割合によつて分割することにする。

(二) 漁業従事期間が五年間に満たない者については、各指数に従事年数を五年で除した割合を乗じたものをその者の指数とし、前記被相続人については、各被相続人の指数に相続分を乗じたものを、その相続人である各原、被告の指数とする。

(三) 前記期間漁業に従事していなかつた非従事者は被告組合員という資格に基づいて潜在的に本件共同漁業権の対象区域で漁業を営む地位を有していたが、本件造成事業によつてその地位を喪失したのであるから、漁業従事者に準じた損失があるものとして、それ相当の指数を割り当てる。

(四) 上記のことを考慮した結果に基づく指数は次のとおりである。

漁業形態 指数

〈1〉 地曳・巾着 三〇

〈2〉 定置 一〇

〈3〉 底曳 一〇

〈4〉 小職 六

〈5〉 小職兼乗子・曳子 五

〈6〉 乗子・曳子 四

〈7〉 非従事者 一

四  弁論の全趣旨によつて成立が認められる乙第五号証の三(漁獲水揚高個人別調査表)、被告浜口保の本人尋問の結果によつて成立が認められる同第七号証の一ないし四五(漁業者調査表、ただし、原告ら関係部分に押捺されている印影および原告寄田稔の指印については争いがない)、証人奥野清春(第一、二回)、同辻野照子の各証言、原告寄田稔(第一、二回)、同滝谷徳松(第一、二回)、同貫野留松、同前山好一、同矢野正一、同矢野和吉、被告奥野文三郎、同浜口保、同板谷政雄、同寺島辰次郎、同辻野実、同北野富治郎の各本人尋問の結果のそれぞれ一部、弁論の全趣旨を総合すると、原、被告らまたは原、被告らの被相続人の昭和三一年から昭和三五年までの間の漁業形態、上記期間中の漁業従事年数および指数は、別紙分割基準一覧表(一)、(二)の各対応欄記載のとおりであることが認められ、この認定に反する同証言および同結果のそれぞれ一部は採用しないし、ほかにこの認定に反する証拠はない。

五  以上の次第で、本件各債権を、原告らと被告らとの間で、別紙分割基準一覧表(一)、(二)記載の各原、被告の指数(ただし右分割基準一覧表(一)、(二)記載の原、被告の被相続人である組合員が死亡した分については、その各指数に当該原、被告の各相続分を乗じた数値)を総指数合計三一八・四で除した各割合で分割する。

第三侵害予防請求についての判断

原告らは、被告組合が別表(C) 記載の債権を請求、引出、受領するなどして、原告らの右預金に対する共有(準共有)権を侵害するおそれがあると主張している。

ところで、前記のとおり被告組合は、本件補償金などが原、被告らの共有に属することを否定しそれが被告組合に帰属すること、従つて被告組合はその総会の決議によつて本件補償金などを処分しうることを主張しているのであるから、被告組合がその総会の決議によつて本件補償金などを分配して了う虞れが十分あるものとしなければならない。

そうすると、原告らの被告組合に対する侵害予防請求は理由がある。ただし、別表(C) 記載の(5) の債権をのぞく。

(むすび)

原告らの本件請求中、共有(準共有)権確認請求と被告組合に対する侵害予防請求は、別表(C) 記載の(1) ないし(4) および(6) ないし(9) の各債権の範囲内で正当であるから認容し、右各債権を、原告らと被告らとの間で、前記分割方法によつて分割したうえ、民訴法八九条、九二条、九三条に従い主文のとおり判決する。

(裁判官 古嵜慶長 下村浩蔵 小澤一郎)

別表(A)  (組合員資格異動分一覧表)

一、原告関係〈省略〉

二、被告関係〈省略〉

別表(B)  (漁業形態及び漁業実績一覧表)

一、原告関係〈省略〉

二、被告関係〈省略〉

別表(C)

(1)  金四、一〇三万七、〇三五円

ただし、被告泉大津漁業協同組合が、その名義で、株式会社住友銀行泉大津支店に預け入れた定期預金債権

及び、右に対する、昭和三九年九月一七日から、金一〇〇円について日歩金一銭六厘四毛四糸の割合による利息金債権

(2)  金四、四二三万一、七九九円

ただし、被告泉大津漁業協同組合が、その名義で、株式会社大和銀行泉大津支店に預け入れた定期預金債権

及び、右に対する、昭和三九年一〇月三〇日から、金一〇〇円について日歩金一銭六厘四毛四糸の割合による利息金債権

(3)  金四三九万九、五〇一円

ただし、被告泉大津漁業協同組合が、その名義で、株式会社大和銀行泉大津支店に預け入れた定期預金賃権

及び、右に対する、昭和三九年一〇月三〇日から、金一〇〇円について日歩金一銭六厘四毛四糸の割合による利息金債権

(4)  金一、五三八万六、七六〇円

ただし、被告泉大津漁業協同組合が、その名義で、株式会社大和銀行泉大津支店に預け入れた定期預金債権

及び、右に対する、昭和三九年八月一三日から、金一〇〇円について日歩金一銭六厘四毛四糸の割合による利息金債権

(5)  金八四九万七、六三一円

ただし、原・被告ら全員から、亡浅井芳太郎の相続人である被告浅井清治、同松浦ハツ子、同酒井芳秀、同酒井孝司らに対し請求しうべき不法行為にもとづく損害賠償債権

及び、右金員に対する、昭和三八年三月一五日から、支払ずみにいたるまで、年五分の割合による遅延損害金債権

(6)  金五八万三、六三二円

ただし、被告泉大津漁業協同組合が、その名義で、株式会社住友銀行泉大津支店に預け入れた普通預金債権

及び、右に対する、昭和三九年九月二二日から、金一〇〇円について日歩金六厘八毛五糸の割合による利息金債権

(7)  金一〇万八、一一四円

ただし、被告泉大津漁業協同組合が、その名義で、株式会社大和銀行泉大津支店に預け入れた普通預金債権

及び、右に対する、昭和三九年一〇月三〇日から、金一〇〇円について日歩金六厘八毛五糸の割合による利息金債権

(8)  金七四万六、〇〇〇円

ただし、被告泉大津漁業協同組合が、大阪府漁業協同組合連合会に対し請求しうべき預託金返還債権

及び、右に対する、昭和三九年一月一四日から、支払ずみにいたるまで、金一〇〇円について日歩金六厘八毛五糸の割合による利息金債権

(9)  金九一万八、二五四円

ただし、原・被告ら全員から、被告組合に対し請求しうべき預託金返還債権

及び、右に対する、昭和三八年一二月二六日から支払ずみにいたるまで、年五分の割合による利息金債権

別表(D)  (収益割分割比率算出一覧表)

一、原告関係〈省略〉

二、被告関係〈省略〉

別表(E)

一、原告関係〈省略〉

二、被告関係〈省略〉

分割基準一覧表(一) (原告ら関係)〈省略〉

分割基準一覧表(二) (被告ら関係)〈省略〉

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